Ida Mathilde Steensgaard tests her limits on Ida’s Ferris Wheel during a unique challenge in Odense, Denmark, on July 12, 2026.
© Mihai Stetcu/Red Bull Content Pool
フィットネス

回転する巨大観覧車で障害物レース!?

HYROXエリート15アスリートのイダ・マチルデ・スティーンガードが回転する巨大観覧車で障害物レースに挑戦したプロジェクトの詳細をチェック!
Written by Tom Ward
読み終わるまで:10分Published on
多くの人には観覧車に見えるが、イダ・マチルデ・スティーンガードには障害物コースに見えた…。
そして、オブスタクル・コース・レーシング(OCR)のワールドチャンピオンに2度輝いた経歴を持つデンマーク出身のHYROXエリート15アスリートのスティーンガードは、母国のオーデンセ港に設置されている直径30mの観覧車“回転中の車輪フレームに設置された6種類の障害物を完了する” という前代未聞のフィットネスチャレンジに変えてしまったのだ。

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企画から本番まで18ヶ月がかかったこのプロジェクトにおいて、スティーンガードはただアイディアを出しただけではなかった。彼女は実際のデザインと設営に関わり、さらには最初のテストも担った。
「なんでこんなにクレイジーなアイディアを思いついたのかと自分でも思いますよ」とスティーンガードは笑い、次のように続ける。「ですが、挑戦して良かったと思っています。他の誰かがこのアイディアを思いついていたら、おそらく “私にやらせて!” と言っていたでしょう。ですので、間違いではなかったと思います」

新たなエクストリームチャレンジ

スティーンガードが2026年のHYROX世界選手権のエリートダブルスで8位入賞してからわずか1ヶ月後だったという事実を踏まえると、このプロジェクトの素晴らしさはさらに増す。連続で偉業を成し遂げるためには非常に優れたスタミナと集中力が必要であり、今回の観覧車プロジェクトは、スティーンガードが珍しくて新しい方法で自分に挑戦することを怖がらないアスリートであることを証明した。
「私は自分の能力に対してかなり自信を持っています」と語る彼女は、多くの目標を同時に進行させていくことから来るプレッシャーについて次のように説明する。「プレッシャーは特別な人しか感じられないものとして捉えています。言い換えるなら、絶対に辿り着けないだろうと思っていた環境で自分の才能を試すことができているからこそ、プレッシャーを感じるのです」
HYROXからOCR、そしてさらなるエクストリームなプレイグラウンドへ向かったこのエリートアスリートは、OCRを完全に異なる環境に持ち込み、高所での持久力・筋力・バランス能力・集中力を試した。
01

観覧車とひとつの疑問

観覧車プロジェクトでのアイディアは、当然ながら、スティーンガードが遊園地にいたときに思いついた。
「年末にハンガリー・ブダペストを訪れていたときに遊園地で観覧車を見かけ、“これに登ったらどうだろう?” と思いついたのです。丁度別のプロジェクトに取り組んだ2024年の年末でしたので、クリエイティブなマインドが保てていたのです」
このように振り返るスティーンガードにとって、プロジェクトでは綿密な計画と同じくらい視覚化(ビジュアライゼーション)が重要だ。「私は常にアイディアをイメージしています。今回も白い観覧車に青い障害物を設置するイメージを持っていました」
イダ・マチルデ・スティーンガードは高所で集中を維持する必要があった

イダ・マチルデ・スティーンガードは高所で集中を維持する必要があった

© Mihai Stetcu/Red Bull Content Pool

スティーンガードの頭の中のイメージを現実へ変える作業は、それだけでまたひとつの難題だった。彼女は2025年1月にプロジェクトチームを集め、3Dモデリングを活用して障害物ごとのバーチャルモデルを作成しながら、障害物についてのブレインストーミングを始めた。
「障害物レースは単純にとても楽しいです。私はこのレース独特のフロウと難度が気に入っていました」とスティーンガードは語るが、今回のデザインプロセスでもその楽しさが得られたようだ。「クリエイティブに考え、設営チームとデザインルームで “この障害物をひっくり返しても機能させるにはどうしたらいいのか?” などについて意見を交換し合うのは最高に楽しかったですね」
2026年の前半6ヶ月は “最終段階” に相当し、設営チームがスティーンガードのアイディアを現実に変えるために全力を尽くした。「異なる障害物についてアイディアを出し合い、理想的なロケーションと観覧車を見つける作業も確認しながら進めていく必要がありました。また、最善策を見出す努力も必要でした。前代未聞のプロジェクトだったからです」
エクストリームなチャレンジを好むスティーンガード

エクストリームなチャレンジを好むスティーンガード

© Mihai Stetcu/Red Bull Content Pool

Quotation
なぜこんなことをしているのかと何回も自問しました
観覧車障害物コースの実現に向けて熱心に取り組んでいたにもかかわらず、スティーンガードは実現できるかどうか不安に思ったときが何回もあったことを認めている。
「なぜこんなことをしているのかと何回も自問しました。どうやってトレーニングをしたらよいのか? 回転している車輪フレームに置かれた障害物をどうやってクリアすればよいのか? そもそもこのプロジェクトは完了できるのか? などの疑問が浮かび上がりました」
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家族も心配する危険度

スティーンガードに近しい人たち全員がこの観覧車プロジェクトを楽しみにしていたわけではなかった。本人は「母からは “それについては聞きたくない” と言われましたが、父親からは “面白そうだ” と言われました。また、弟には “もちろん、挑戦しないとね!” と言われました」と振り返っている。
スティーンガードのようなエクストリームアスリートの家族にとって厄介なのは、彼女たちの活動を把握するのが難しいところだ。なぜなら、彼女たちの活動内容は常に変化するからだ。スティーンガードは観覧車プロジェクトの恐怖レベルを10点満点中9.5と自己採点している。また、プレッシャーも大きく、完成した状態を初めて確認する日、彼女は起床後にパニック障害を起こしてしまった。
強烈な障害物コースに挑む直前のスティーンガード

強烈な障害物コースに挑む直前のスティーンガード

© Mihai Stetcu/Red Bull Content Pool

「その前の晩は心配で眠れませんでした。コースのどこかから落下してしまえば、背骨を骨折してしまいます。死なないにせよ、重傷を負う確率が極めて高かった。ですので、“恐怖を感じて当然だし、自ら望んでこのリスクを取っている” と自分に言い聞かせました」
本番では安全ロープを装着したが、このようなリスクこそスティーンガードが観覧車プロジェクトにやり甲斐を感じた理由だった。「あそこまで高い、超危険な環境にいるときの警戒状態、恐怖心、パニック状態について世の中はあまり知らないのです。落下すれば観覧車のスポークに絡まるか、車輪の下に身体を打ちつけてしまいます」
母親が心配するのも当然だ…。
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恐怖を受け入れる

スティーンガードは、HYROXレースでも観覧車プロジェクトでも「絶対に恐怖から逃げ出さない」と語り、次のように続ける。「まず恐怖を受け入れるのです。そして時間が経つと、自分の状態を冷静に分析できるようになるのです」
重要なのは、「失敗したらどうしよう」という考えを捨てて、“今” と “目の前にある障害物” だけにフォーカスすることだ。スティーンガードはさらに続ける。
「OCRや観覧車プロジェクトでは、非常に具体的に考えていく必要がありますし、自分のムーブをピンポイントで合わせる必要があります。同時に、自分にはペースを調整しながら完走できる持久力とスタミナが備わっていると信じる必要もあります。観覧車プロジェクトでは、観覧車がかなり高速で回転していたので、3分10秒間全速力で走り続けている感覚でした」
スタミナと筋力をトレーニングで鍛え上げた

スタミナと筋力をトレーニングで鍛え上げた

© Mihai Stetcu/Red Bull Content Pool

パニック状態の自分を隠そうとする代わりに、スティーンガードは不快さを受け容れ、パニックに陥っている理由や恐怖を感じている理由を探そうとする。
「私は “今のこの自分の状態は本当なのか?” と声に出して自問します」と説明する彼女が、恐怖を解析して不安な自分を落ち着かせる方法を身に付けるまでは7年という長い時間がかかった。メンタルトレーナーの力を借りることで、彼女は最も難しいタスクでも “パズルを解く” マインドセットで取り組めるようになったのだ。
現在、このマインドセットは完全に身についていると彼女は語る。「トレーニングでも、プライベートでも、自分の限界をプッシュして、不快な状況に身を置くことを恐れないことが重要です。パズルを解くように、不足しているピースを見つけ、ハードワークを続ければ、いずれ解決できるのです」
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HYROXトレーニングの恩恵

スティーンガードは高難度のチャレンジに挑み続けているが、その理由は自分の身体能力に対して好奇心を持っているからだ。
「私は、女性でもクレイジーなことができること、そして女性もアドレナリンを好むことを示すのが好きです。女性でも難しいことをやり遂げてネクストレベルに到達し、中々見えない答えを探し続けていけるのです」
観覧車プロジェクトに向けたトレーニング最大の問題のひとつが、最終盤まで障害物が完成しなかったことだ。今回の障害物はそれまで誰も取り組んだことがない類いだったにもかかわらず、スティーンガードは実際の障害物を使ったトレーニングができなかった
「かなりリスクが高いプロジェクトでした」とスティーンガードは振り返る。彼女は各障害物の挙動を理解していたが、観覧車の回転が加わる現場での挙動のシミュレートは難しかった。「自分が回転するトレーニングや、他の動く要素を加えたトレーニングを試してみましたが、現場と同じにはなりませんでした」
スティーンガードにできたのは自分がすでに知っていることにフォーカスしてジムでのトレーニングを続けることだけだった。HYROXトレーニングを通じてスタミナはすでに手に入れていたが、今回のプロジェクトとHYROXは少し違った。
「フィジカルではより多くのセッションを組み込む必要がありました。大半は障害物ごとに特化したトレーニングで、基本的にはマッスルメモリを呼び起こしていく感じでした。私はOCRに長年取り組んできましたが、引退からしばらく経っていたので、このトレーニングで自信を取り戻しました!」
HYROXではかなり優れた上半身の筋力が求められるが、スティーンガードはその筋力を観覧車プロジェクトに向けたプル / グリップ / バランス系トレーニングに活用できた。
心身を鍛え直す必要があった

心身を鍛え直す必要があった

© Mihai Stetcu/Red Bull Content Pool

Quotation
観覧車プロジェクトでは限界突破を目指していました。今回のプロジェクトは完全に別レベルでした。これまでやってきた他のどれよりも誇りに感じていますね
また、メンタル面に目を向けると、スティーンガードは肩の古傷の不安を取り除く必要があった。そのため、彼女は身体の左右対称性や弱まっている部分が残っているかどうかを検査で確認した。「障害物を握っているときに腕に痛みが走り、手が勝手に開いてしまうときがありました」と彼女は振り返っている。
スティーンガードは、観覧車の高さを確認する前にこれらに対応しておく必要があった。つまり、彼女は自分の身体をまた信じられるようにリハビリを重ね、自分にまだOCRに求められる才能とフロウが備わっていることを確認していったのだ。
「最も重要だったのは、最高の状態まで自分をプッシュすることでした。今回のプロジェクトでは心底恐ろしいと思ったときがありました。観覧車の上で、しかもそこに回転によってすべてが動くというクレイジーな要素が加わるのです」
スティーンガードの今回のプロジェクトに向けた専用トレーニング、そしてHYROXとOCRでの経験が、そのような恐怖を乗り越えて前に進み続ける自信を彼女に与えた。
「観覧車プロジェクトでは限界突破を目指していました」とスティーンガードは振り返る。「本番でのパフォーマンスはもちろん、1年半前にこのアイディアを思いつき、実現できたことも誇りに感じています。今回のプロジェクトは完全に別レベルでした。これまでやってきた他のどれよりも誇りに感じていますね」
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スティーンガードの次の目標

スティーンガードはOCRの魅力を再発見した

スティーンガードはOCRの魅力を再発見した

© Mihai Stetcu/Red Bull Content Pool

スティーンガードはOCRで長年活躍したあと2024年に引退したが、観覧車プロジェクトは彼女のOCRの情熱に再び火を点けることになった。
「観覧車プロジェクトに取り組んでいる間に、OCRに戻りたい気持ちが高まっていきました」と彼女は語る。しかし、完全復帰は考えていないようだ。「長年に渡りOCRの絶対女王として君臨してきたので、レースで優勝できる確信が得られない限り、現役復帰は難しいと思います」
現在、スティーンガードはHYROXのダブルスにフォーカスしており、今後もそのフォーカスは変わらないようだ。彼女は「来年もダブルスを頑張るつもりです」と締め括っている。
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