マックスがドライブするRB21
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F1

F1マシン:技術革新の歴史

パワーオンリーの1950年代からハイテク&ハイブリッドの現在まで、F1マシンはイノベーションとともに進化を続けてきた。F1マシンの発展の歴史を簡単に解説しよう。
Written by Amanda Clark
読み終わるまで:12分Published on
F1マシンはスポーツと科学の結晶であり、改良ひとつひとつがパフォーマンスを向上させる。
このことについては、マックス・フェルスタッペンに尋ねてみれば良いだろう。彼はタイトル獲得においてそのような改良が重要であることを誰よりも知っている。
シンガポールGPでのマックス・フェルスタッペン

シンガポールGPでのマックス・フェルスタッペン

© Getty Images/Red Bull Content Pool

2024シーズンのシンガポールGP開催前夜、フェルスタッペンと彼のチームは順位上昇の確率を高めるべく、F1マシンに最終調整を加えたが、この努力は見事に結果を出した。フェルスタッペンは当時次のようにコメントしている:
「2位には大いに満足しています。ハードワークをしてくれたチームのおかげです。素晴らしいソリューションを用意してくれました。チームが徹夜でマシンに改良を加えてくれたことが大きな違いを生みました。マシンのフィーリングがかなり良くなったので、コーナーでもう少し攻められるようになり、パフォーマンスを最大化できました」
フェルスタッペンとチームは、ほんの少しの変更が勝敗を左右することを理解している。フェルスタッペンのチームにもいるF1エンジニアたちは、F1の歴史を通じて、マシンの空力性能とスピードを高めるべくデザインに様々な変更を加えてきた。以下にF1マシンの進化の歴史を振り返っていこう。
01

黎明期(1950年代〜1960年代)

《F1前史》

厳密に言えば、F1に繋がる最初の咆哮が記録されたのはエドワード朝の1890年代で、当時はヨーロッパ各地でロードレース(公道レース)が大きな人気を獲得していた。しかし、モータースポーツとしてF1が正式にサーキットを走るまではそこからいくつかのフェーズを経由することになる。
まず、1901年に世界初の “グランプリ” を冠したロードレースが開催された。F1が正式なモータースポーツになったのは、それから約半世紀後の話だ。FIA(国際自動車連盟)は1946年にレース用ルールを制定していたが、近代F1が正式に開催されたのは1950年だった。

《世界選手権のはじまり》

元々は "フォーミュラA" として知られていた "フォーミュラ1" という名称は、このカテゴリーに関わる全員が従わなければならないルールにちなんでいる。
それらのルールの適用範囲が、マシンの設計においてドライバーが遵守しなければならない空力性能、車重、エンジン容量を含むすべての技術仕様 / 製造方法(=フォーミュラ)で、要するにF1とは、このフォーミュラに適合しているマシンのレースカテゴリーなのだ。
最初のF1レース(非選手権レース)は、1950年にフランス南西部ポーで行われ、その1ヶ月後に最初の “F1世界選手権グランプリ” が英国のシルバーストン・サーキットで開催された。
1954シーズンのドイツGPでのファン・マヌエル・ファンジオ

1954シーズンのドイツGPでのファン・マヌエル・ファンジオ

© Daimler AG

黎明期のF1マシンのデザインは、空力性能が最大限まで追求されている現在のデザインからはかけ離れている。
当時は、その空力性能の欠如によってドライバーがコースに留まり続けるのが難しくなるときも少なくなかった。たとえば、ファン・マヌエル・ファンジオスターリング・モスのようなドライバーたちはトリッキーなレイアウトのサーキットで頻繁にアクシデントに遭遇していた(それでも複数回に渡りそのようなサーキットの攻略に成功しており、ファンジオは1950年代にタイトルを5回獲得した)。

《初期の変更》

1958年はF1にとって最初の大きなターニングポイントになった。まず、F1史上初の大規模なレギュレーション変更が行われた。走行距離が約300マイル(480km)から200マイル(360km)に短縮され、ドライバーたちは航空機用ガソリン(Avgas)の使用が義務づけられた。
また、この年はエンジンがドライバーの後方に設置されているF1マシンが初めて優勝した年でもあった。そのマシンとは、アルゼンチンGPでモスがドライブしていたクーパー・T43だ。
1961年には、サーキットでの走行スピードを減速させるべく、エンジンをスーパーチャージャー非搭載の1.5リッターに規定する動きがあったが、この規定は5年後に排除され、1966年には3.0リッターエンジンを使用できるようになった。
そして1960年代はロータスの時代でもあった。この英国のF1チームは、伝統的だったスペースフレーム構造シャシーをアルミ製モノコック構造シャシーに変更してより安定したエンジンを手に入れると、ジム・クラークが3シーズンでタイトル2回を獲得した。
1960年代後半に入ると、ジム・ホールがCan-Amシリーズのシャパラル・カーズで採用していたウイングからインスピレーションを得たウイングが採用されるようになった。ウイングにはダウンフォースを発生させてマシンのトラクションと安定性を向上させる効果があった。
同時に、このイノベーションはロータス時代の終焉を意味していた。ウイングによってF1マシンがより高いスピードで走行できるようになったため、ロータスはアドバンテージを徐々に失っていった。
02

1970年代〜1980年代

《空力の導入》

1970年代に入る頃、F1は空力時代に突入していた。まず、ロータスがラジエターをマシンの前面から側面に移した斬新なデザインにウイングを組み合わせた名車ロータス72を開発してカムバックを果たした。このマシンはドライバーズとコンストラクターズで合計5つのタイトルをチームにもたらした。
そして、1975年にはニキ・ラウダクレイ・レガツォーニを擁するフェラーリが台頭。2人は水平対向12気筒エンジンを積んだ312Tをドライブした。その約1年後、F1マシンのコックピット後方にエアボックスが配置され、エンジンへ空気を送り込めるようになった。これをきっかけにF1マシンは接地力とエネルギー効率を追求するグラウンド・エフェクト時代へ向かっていく。
F1エンジニアたちは、グラウンド・エフェクトの最適化を目指して空力性能が異なる様々なデザインを試していった。最適解を得るまでにはいくつかのトライ&エラーが必要となり、最初期のF1マシンは車高が低すぎてバンプや縁石を乗り越えるのもひと苦労だった。しかし、F1マシン:技術革新の歴史ベンチュリトンネルより流線的な車体が用意されたことでグリップとコーナーリングスピードが向上した。
ベンチュリトンネルとはダウンフォースを向上させるべくマシンの底面に用意されている機構で、通過する空気を絞り込むことで速度を高めると同時に接地力を高めることができる。
最終的に、1980年代初頭にはすべてのチームがグラウンド・エフェクト・マシンを採用するようになった。しかし、このような技術革新は事故発生率を高めてしまったため、1982年にグラウンド・エフェクトは禁止された。

《ターボエンジンの登場》

史上初のターボチャージャー搭載F1マシンは、ジャン=ピエール・ジャブイーユがドライブしたルノー・RS01だった。
排気ガスを回生して出力を増加させるターボチャージャーを使用するとエンジンが排気ガスを発生させるまでの時間が長くなるが、ドライバーはアクセルの踏み込みを少し増やすだけで、素晴らしいスピードを得ることができる。これがターボエンジン搭載F1マシン隆盛の要因となった。
ルノーRS01はターボ時代を生み出した

ルノーRS01はターボ時代を生み出した

© DPPI

一方で、ターボエンジンの開発は中々進まなかった。なぜなら、11チームが高性能のコスワース製エンジンを採用していたからだ。しかし、1983年ネルソン・ピケがBMWターボエンジンを搭載したブラバム・BT52 / BT52Bでワールドチャンピオンに輝くと、ターボエンジンが徐々に人気を獲得していく。
また、この頃にはマクラーレンがTAGポルシェエンジンを導入し、翌シーズンに目覚ましい活躍を見せた。TAGポルシェエンジンを搭載したマクラーレンの新型F1マシンMP4/2は1984シーズンの全16戦で12勝を挙げ、ターボチャージャー搭載エンジンのパワーを世界にさらに示した。
1980年代は、アイルトン・セナアラン・プロストのライバル争いも注目を集めた。その大きなきっかけとなったひとつが、ファイナルラップでセナが首位プロストを抜いてフィニッシュした1984シーズンのモナコGPだ。
結局、この追い抜きは認められずセナは2位に終わったのだが、ターボエンジンを積んだTG184を駆ったセナの予選13位からの猛追撃は多くのファンの記憶に残った。
尚、ターボエンジンは1980年代後半にはその強烈なパワーゆえに禁止となり、その代わりに自然吸気の3.5リッターエンジンが採用された。
03

1990年代〜2000年代

1990年代のF1は、電子デバイスの登場が大きな特徴だ。史上初のセミオートギアボックストラクションコントロールを組み合わせたウィリアムズ・FW14が、F1デジタル時代の嚆矢となった。セミオートギアボックス、別名トランスミッションによって、ドライバーは以前よりも簡単にシフトチェンジができるようになった。
セナは、このFW14の台頭にもかかわらず、マクラーレン・ホンダMP4/6で勝利を挙げ続けていたが、ナイジェル・マンセルFW14Bアクティブサスペンションがサーキットに対応できることを証明すると、F1ドライバーたちにより新しくてより優れた選択肢が与えられた。マンセルの駆るFW14Bはこのようなテクノロジーのアドバンテージを活かして複数のレースで優勝した。
こうして、コンピューターがアシストするF1マシンが近代のF1マシンデザインの中心に位置するようになったが、その時代は長く続かなかった。1990年代初頭にFIAがアクティブサスペンションとその他のオートマティック機構を禁止したからだ。
1994シーズン直前のこのレギュレーション変更によって、レースからコンピューターのアシストがなくなり、フェアな勝負がしやすくなった結果、ドライバー間のライバル争いが激化した。
一方で、デザイナーたちは開幕前にマシンを新レギュレーションに適合させなければならなくなり、時間的に追い詰められてテストが十分にできなかった。結果、ドライバーたちはマシンを完全にコントロールするのに苦心し、アクシデント発生率が上昇してしまった。
1994シーズンのもうひとつの大きな変更は、レース中の給油の再導入だったが、これは多少の議論を巻き起こした。なぜなら、ピットストップによってドライバーたちが抜き合うF1のレース性が失われたと嘆くファンがいたからだ。
その後、1997シーズンにはティレルXウイングを採用したことが話題になった。このサイドポッドに装着されたウイングは、ルックスが醜悪だったため評価されず、1年後には禁止となった。
2000年代前半は、ミハエル・シューマッハが注目を集めた。シューマッハはフェラーリ時代にドライバーズタイトル5連覇を達成した。
2000年代後半はテクノロジーが再び注目を集めるようになった。運動回生エネルギーシステム(KERS)が2009シーズンに導入され、ドライバーたちはブレーキング時に発生する運動エネルギーをマシンのパワーに再利用できるようになった。また、フロントウイングとリアウイングが可変式になり、空力性能が向上した。
04

2010年代〜現在

F1のテクノロジーは日進月歩で、2011シーズンにはドラッグリダクションシステム(DRS)が導入されて、ドライバーたちがより多くのオーバーテイクチャンスを得られるようになった。
2024シーズンにVCARB01をドライブする角田裕毅

2024シーズンにVCARB01をドライブする角田裕毅

© Chris Graythen/Getty Images/Red Bull Content Pool

また、2014シーズンにはハイブリッドエンジンとしてターボチャージャーが復活。これらのハイブリッドエンジンは、ターボチャージャー搭載エンジンとエネルギー回生システム(ERS)を組み合わせることで環境面に配慮している。ERSは運動エネルギーと熱エネルギーを回生することが可能で、それぞれの装置はMGU-KMGU-Hと呼ばれている。
ごく最新のテクノロジーもF1で導入されている。最近のエンジニアたちは3Dプリンターを活用してマシンやエンジンのパーツを製作して、研究開発をスピードアップさせている。また、ドライバーたちはAR(拡張現実)を活用してレース前にコースをチェックしている。さらに、AI(人工知能)もマシンのパフォーマンス分析や空力性能の向上のために活用されている。
05

F1マシンの未来

F1のエンジニアリングによるマシンのパフォーマンス向上には限界が存在しない。油圧式パワーシフト8速ギアボックスを搭載していたオラクル・レッドブル・レーシングのRB20はその好例で、2025シーズンにはRB20をさらに改良したRB21が採用される。
RB21

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また、FIAは2026シーズンに大規模なレギュレーション変更を実施する予定だ。マシンは30kg軽量化され、モーターのバッテリーが300%増量し、出力がエンジンとモーターで均等に振り分けられる。さらに、電動パワーを一時的に増加させてオーバーテイクをしやすくするマニュアル・オーバーライド・モードも導入される。
一方で、F1は2030年までのゼロエミッションを目標にしている。これを実現するためには、F1の技術革新が最高レベルに到達している必要があるが、有り難いことにF1はすでにエタノール・バイオ燃料を10%使用しており、サステナブル燃料の100%使用を目標にしている。
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F1マシンと技術革新

モータースポーツ車両およびF1マシンの進化の歴史は、人類の創造力とパフォーマンスの飽くなき追求の証だ。純粋なパワーだけのマシン時代からハイテクなハイブリッドマシンの時代まで、F1はモータースポーツのエンジニアリングにおける可能性の限界を引き上げ続けてきた。
新しいテクノロジーが次々と登場しているため、F1がさらにスリリングに進化していくことは確実で、F1マシンは今後も競争とスピードの頂点に立ち続けるだろう。
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